かぜ症候群 Common cold
かぜの症状
「かぜ」は一生のうちに最も多くかかる病気の一つだと思います。医学的には「かぜ症候群」と呼ばれますが、文献的な定義は「様々なウイルスによって起こる疾患群で、良性の自然軽快する症候群」とされており、せき、はな、のどの3つの症状が同時に、同程度存在する病態と理解されています。「症候群」とは「病気の原因が不明確ながら、共通の症状や検査・画像所見を示す患者さんが多い場合に、そのような症状の集まりに名前をつけて扱いやすくしたもの」と言われていますので、明確な原因(病原体)を見つけることは困難であることが理解できると思います。
かぜの原因と経過
一般的に原因微生物は80~90%がウイルスといわれており、主な原因ウイルスとしては、ライノウイルス、コロナウイルスが多く、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどが続きます。ウイルス以外では、一般細菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミドフィラなど特殊な細菌も原因となります。通常の経過では、まず微熱、だるさ、のどの痛みなどから始まり、1-2日遅れて鼻の症状が出現し、咳や痰が出てきます。症状を自覚してから3-4日あたりでピークを迎え、1週間程度で徐々に回復していきます。但しのどや鼻の症状が良くなっても、咳だけが残り数週間続くこともよくみられ、感冒後咳嗽、感染後咳嗽などと呼ばれています。
かぜの対処法
かぜは「良性の自然軽快する症候群」ですから、究極のところ、かぜ薬を服用しなくても数日で治ってしまうことになりますし、原因微生物のほとんどがウイルスですので、細菌感染症の主たる治療薬である抗菌薬(抗生物質)がほとんど無効であることはおわかりになると思います。しかしながら、かぜをひいたと言って受診された患者さんの症状が何もしなくても良くなるかどうかは、予言能力でもない限り、その段階で判断を下すことはできませんし、多くの患者さんは薬をもらうために病院を受診する訳ですから、症状に見合った治療薬を選択するのが我々医師の役目になります。では何のために医師が診断を下すのかということになりますが、患者さん自身は「かぜ」だと思っていても、その中の一部の人に思わぬ重症な病気が隠されていることがあるからです。
かぜ診断の難しさ
「かぜをこじらす」という経験をされた方も多いとは思いますが、それは最初の対応に問題があったとは限らず、経過中の予期できなかった変化のこともあり、その都度の見極めが重要となります。したがって、早めに治療する、予防的に治療するという考えはあまり効率的ではありませんし、かえって正確な診断を遅らせてしまうことにもなりかねません。そのかわり、1週間以上も症状が続く、あるいは徐々に悪化しているようであれば、二次性の細菌感染症や他の原因も考えて、血液検査やエックス線検査なども必要となるでしょう。すなわち「かぜ」と明確に診断することは医師であっても決して容易なことではないことをご理解いただければと思います。
*高齢者のRSウイルス感染症(きょうの健康2024.8月号)