6/12 第68回日本老年医学会学術集会講演
2026/6/12 第68回日本老年医学会学術集会(神戸市) スイーツセミナーにおいて「高齢者のウェルビーイングを考えた感染症対策」をテーマに講演を行いました。講演要旨は以下の通りです。
人生100年時代において、感染症対策は単なる病気にならないための手段ではなく、長く質の高い人生(ウェルビーイング)を維持するための土台へと捉え方が変化しつつある。しかし、2020年に発生したCOVID-19のパンデミックにおいて、罹患による重症化リスクが高いことを繰り返し周知された高齢者に与えられた強烈なインパクトは計り知れないものであり、5類感染症に移行した現在においてもその影響が尾を引いている印象である。
COVID-19だけではなく「高齢者が感染症に罹患すると重症化する」ことは紛れもない事実である一方で、感染対策を名目に必要以上の活動自粛を促せば、社会的孤立やフレイルが進行し、老衰や誤嚥性肺炎の増加につながる可能性や、受診控えによる疾患管理の悪化も懸念される。実際にCOVID-19流行初期において、緊急事態宣言を含む施策により高齢者の活動性が約30%減少し、様々な社会活動の自粛が顕著になったことが報告されている。高齢者における感染症対策とフレイル予防のバランスを取ることは非常に難しいことからも、十把一絡げにして対策を講じるというよりは、個人の特性や社会的背景を考慮した対応、すなわちゼロリスクではなくリスク・ベネフィットを見極めた効率的な手法が望まれる。
現場における感染症対策は医療機関だけではなく、専門職が限られている介護施設等においても求められるが、高齢者が入所する諸施設は「生活の場」でもあるために、過度な制限で尊厳を損なわないように、科学的根拠に基づきつつも柔軟な対策を検討しなければならない。一方で感染症罹患による入院や重症化は、経済的な自立を脅かすリスクとなることから、係わる医療従事者は早期診断および早期治療の認識、ワクチンを中心とした予防戦略の徹底に努めることも合わせて必要な対応である。高齢者が安心して生活できるように、個人が孤立せず地域全体で支え合えるような連携体制を強固にし、感染症流行に対して強い社会を築き上げていくことが期待される。
