「Your Doctor」医療コラム記事監修
医師と患者の距離を縮め信頼し合える関係を築くためのメディア「Your Doctor」の医療コラム記事「アニサキス症で魚介類が食べられなくなる?」の監修を行いました。
アニサキスは、魚介類の寄生虫の一種。国立感染症研究所によるとアニサキス食中毒は増加傾向にあり、2013年の88件から、2023年には432件に増加した。アニサキスの食中毒が増えているのは、その存在が広く知られるようになったことに加え、輸送技術が発達し、魚を生で輸送できるようになったことが大きい。生で魚を輸送できる、すなわちアニサキスも生きたまま運ばれてしまうようになったのだ。アニサキスやその他の寄生虫について、日本感染症学会専門医で、特に寄生虫症の臨床と研究、海外渡航者の健康管理などに長年関わってきた「グローバルヘルスケアクリニック」院長の水野泰孝医師に聞いた。
アニサキスはアニサキス亜科に属する線虫の総称です。体長2センチになるアニサキスの第3期幼虫が魚介類に寄生し、アニサキス症の病原体になります。アニサキス症は、「魚介類の生食を避ける」、あるいは「加熱してから食べる」ことが確実な感染予防となります。また、冷凍処理するとアニサキスの幼虫は感染力を失うため、生食する場合は魚をいったん冷凍し、解凍後に食べることも感染予防に役立ちます。言い換えれば、生で輸送された魚介類を、生のまま食べれば、季節を問わず、だれでも感染のリスクがあります。日本でアニサキス症の発生が多いのは、魚介類をお刺し身や寿司などで食べる「魚介類の生食文化」が根付いていることが挙げられます。国立感染症研究所も、日本でのアニサキス症の症例が諸外国に比べて圧倒的多数であることを指摘しています。同研究所が33万人規模のレセプトデータ(医療機関が健康保険組合等に提出する診療報酬明細書)を用いて行った試算によると、日本国内でのアニサキス症の発生件数は、推計年間7147件※(2005年から2011年の年平均)。これに対し海外での報告数は、オランダでアニサキス症の発生が報告された1960年から2005年までの45年間で、欧州で累計約500件、米国で累計約70件とされています。
アニサキス症は、魚介類を生食や加熱不足で食べ、魚介類に含まれる生きたままのアニサキスが体内に入ることで、激しい腹痛や吐き気が起こるもの。アニサキスが含まれていない魚介類では起こりませんし、十分な加熱や冷凍でアニサキスが死滅していれば、アニサキス症を起こしません。つまり、魚介類全般を食べられなくなるわけではありません。また、アニサキスを内視鏡で摘出すれば、症状は治ります。たとえ内視鏡摘出を行わなくても、アニサキスは人間の体内では成虫にならないので、死滅すれば症状は数日間で治ります(ただし、激痛を数日間我慢するということになります)。
一方、アニサキスアレルギーという疾患があります。その名の通り、アレルギーの一種です。アニサキスをアレルゲンとし、アレルギー反応が起こるのです。症状はアニサキス症とは異なり、じんましん、喘鳴、呼吸困難、腹痛、嘔吐、下痢、血圧低下、意識障害などのアナフィラキシー症状。アナフィラキシーショックを起こせば、命に関わります。このアニサキスアレルギーは、アニサキスの抗体に反応して発症するため、生きているアニサキスだけではなく、アニサキスの死骸やカケラでも起こります。アニサキスはほとんどの魚介類に寄生しているため、ほとんどの魚介類が調理法を問わず食べられなくなります。刺し身、焼き魚、煮魚、干物、練り物、魚介類の缶詰、魚で取っただし汁、だしじょうゆ、めんつゆ、魚介エキスが入った加工食品、カツオエキスが入っているせんべい、オキアミが入っているキムチ、魚介のだしが入っているラーメンやそば・うどん、アンチョビ…。食生活がかなり制限されてしまいます。
予防としては前述の通り、魚介類の生食を避ける。60℃で1分以上加熱してから食べる。生食の場合は、マイナス20℃で24時間以上冷凍処理をした魚介類を選ぶ。魚介類の内臓はすぐ取り除き、生では食べない。目視も重要で、目で見て発見したら除去する。料理で使う程度のしょうゆ、わさび、酢では、アニサキスは予防できません。
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