予防内服(マラリア・高山病) Chemoprophylaxis
マラリア予防の基礎知識と感染リスク
マラリアに感染する可能性は、渡航者の旅程や現地での行動形態によって大きく左右されます。具体的には、訪問したマラリア流行地域(アジア地域よりアフリカ地域)や、滞在場所(都市部より郊外)、行動時間帯(昼間より夜間)、エアコン設備が整ったホテルなどより蚊に刺されやすいキャンプなどの宿泊形態、滞在期間、滞在時期、予防手段の有無、滞在地の標高(2000m以上の高地より平地)などが重要な危険因子となります。
また、先進国に居住するマラリア流行地からのVFR(Visiting Friends and Relatives:帰省目的の渡航者)は、特にリスクが高いことが示されています。日本においては欧米諸国ほど多くはありませんが、近年の国際結婚の増加に伴い、該当する方は予防の徹底を行う必要があります。
渡航地域による感染リスクの違い
マラリアの罹患リスクは、同一国内であっても地域ごとに大きく異なります。最もリスクが高い地域はパプアニューギニアおよびソロモン諸島ですが、ここで発生するマラリアの半数以上は非熱帯熱マラリアです。一方で、重症化しやすい熱帯熱マラリアのリスクが最も高いのはサハラ以南のアフリカ地域です。予防内服を行わずに1か月滞在した場合の罹患率は、西アフリカ地域で2.4%、東アフリカ地域で1.5%という報告があります。
ハマダラカの刺咬を防ぐ防蚊対策
マラリア流行地に滞在する際は、病原体を媒介するハマダラカに刺されないための対策が不可欠です。ハマダラカは夜間吸血性であるため、日没後に外出する際は長袖・長ズボンの着用を心がけましょう。また、DEET(ディート)を20%程度含有する防虫剤の使用が、成人および2か月以上の乳児、妊婦において推奨されています。宿泊の際は空調設備の整った部屋を選び、必要に応じて蚊帳を併用すると効果的です。蚊の発生ピークとなる雨季の終わりの渡航を避けることも、感染リスクを下げる有効な手段となります。
予防内服の適応判断と検討事項
マラリア予防内服の処方は、渡航者が感染するリスクと、服薬による副作用のリスクを比較検討して決定します。検討の際には以下の項目を確認します。
- 滞在地はマラリアに罹患する危険性が高いか?
- 滞在地における優位なマラリア原虫種は何か?
- 滞在地は多剤耐性熱帯熱マラリアの発生地か?
- 滞在地には速やかに対応可能な医療施設が存在するか?
- 処方する抗マラリア薬の禁忌事項に該当しないか?
- 処方する抗マラリア薬を最後まで継続することが可能か?
日本の旅行者のためのマラリア予防ガイドラインでは、以下の基準に基づき予防内服を推奨しています。
絶対的適応の基準
以下の2項目に両方該当する場合は、重症化の危険が高いため、防蚊対策に加えて予防内服が強く勧められます。
- 熱帯熱マラリアの高度流行地域に滞在する:通常はサハラ以南アフリカ、パプアニューギニア、ソロモン諸島、南米アマゾン河流域などが該当します。
- マラリア発症後に適切な医療対応が期待できない:早期治療ができれば治癒可能ですが、医療機関がない地域では死亡の危険性が高くなります。ただし、滞在期間が7日未満の場合は、帰国後に日本で治療が可能なため、この項目には該当しません。
相対的適応の基準
上記2項目を両方満たさない場合は、防蚊対策を中心としたアドバイスを行います。ただし、渡航者の強い希望がある場合は、副作用のリスクを十分に説明した上で処方を検討します。
緊急スタンバイ治療(SBET)の活用
緊急スタンバイ治療(SBET)とは、マラリアが疑われる症状が出たものの、発症から24時間以内に医療機関を受診できない場合に、緊急避難的に抗マラリア薬を服用する方法です。これは医療機関での受診に代わるものではなく、服薬後も速やかな受診が必要です。
主に、熱帯熱マラリアのリスクが低い地域や、医療施設から遠く離れた地域に滞在する場合に適応されます。実施にあたっては、以下のステップを遵守する必要があります。
-
滞在期間の確認
流行地に入ってから少なくとも6日以上経過していることを確認します。 -
症状の確認
マラリアを疑わせる38℃以上の発熱があるか確認します。 -
受診可否の判断
24時間以内に適切な医療機関を受診することが不可能であるか判断します。 -
薬剤の服用
上記の条件を満たす場合、自己責任において緊急避難的な服薬を実施します。
当院で処方可能なマラリア予防薬・治療薬
| 薬剤名 | 用法・用量(予防の場合) |
|---|---|
| メフロキン (メファキンヒサミツ錠) |
流行地に入る1週間前より開始し、離れてから4週間まで、毎週1錠を服用します。 |
| アトバコン・プログアニル合剤 (マラロン配合錠) |
流行地に入る前日より開始し、離れてから1週間まで、毎日1錠を服用します。 |
| ドキシサイクリン (ビブラマイシン) |
流行地に入る前日より開始し、離れてから4週間まで、毎日1錠を服用します。 |
緊急スタンバイ治療薬(治療用)
| アーテメター・ルメファントリン合剤 (リアメット配合錠) |
緊急時の治療用として、3日間で計24錠(1回4錠を1日2回)を服用します。流行地ではCoartemという名称で流通しています。 |
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アフリカのサファリに行かれる場合は、予防内服を強く推奨します。
チョベ国立公園(ボツワナ)およびビクトリアフォールズ周辺
高山病のメカニズムと予防内服
高山病は、低地から高地へ急激に移動した際に、低気圧および低酸素状態に身体が順応できないことが原因で起こります。症状を軽減するために、呼吸中枢を刺激して酸素の取り込みを助けるアセタゾラミド(ダイアモックス)を使用します。これは高所への順応を早めるものであり、完全に発症を防ぐ魔法の薬ではないことを理解しておく必要があります。
副作用として手指のしびれや頻尿が見られることがあります。3000メートル以上の高地(クスコ、ラパス、ウユニ塩湖、キリマンジャロなど)へ行かれる方には予防内服をお勧めしています。
当院で処方可能な高山病予防薬
| 薬剤名 | 用法・用量 |
|---|---|
| アセタゾラミド (ダイアモックス) |
高地に入る前日から開始し、3~4日間服用します。 |
ペルーのマチュピチュ・クスコ周辺
マチュピチュへ向かう際は標高の高いクスコを経由するのが一般的であるため、事前の備えが重要です。
性感染症の予防内服(ドキシペップ:Doxy PEP)
性交渉後にクラミジア、淋菌、梅毒などの感染を予防する内服方法です。感染の可能性がある機会から72時間以内に特定の抗菌薬(ドキシサイクリン)を服用することで、感染成立の確率を抑制します。予防の基本はコンドームの適切な使用ですが、ドキシペップは世界的に効果が認められている予防法の一つです。当院ではこの薬剤を常備しており、処方が可能です。
