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予防接種(トラベラーズワクチン)Travelers' vaccine

トラベラーズワクチンについて

 トラベラーズワクチンには、自らの感染予防だけではなく周囲への感染を防止するために主に小児期に実施される定期に接種するもの(Routine vaccine)、入国時や留学時に予防接種済の証明書を要求されるもの(Required vaccine)、海外で流行している感染症に対して自らの感染予防を行うために推奨されるもの(Recommended vaccine)があります。

 使用するワクチンの多くは期間をあけて複数回接種しなければなりませんが、多くの渡航者は出発までの時間が限られているため、複数のワクチンを同時に接種することになります。同時接種は認められた方法であり、接種部位の腫脹などの副反応が本数に比して増加する傾向がありますが、相乗効果で大きな副反応を誘発することはほとんどありません。

 接種後、どのくらい免疫が持続するかはワクチンの種類や個人の免疫状態によって異なりますが、どのワクチンも規定の間隔で3回接種を行えば大まかには5年程度は免疫が維持されると推測されます。「有効期間がどのくらいか?」と質問される方がとても多いのですが、個々によって大きな差がある免疫の状態からもその期限を区切ることはほぼ不可能です。この質問は正確には「免疫の維持される推定期間」ということであり、その期間を過ぎた段階で「追加接種を考慮する」ということが正しい概念となります。「5年間有効」と言われてしまえば「5年と1日経ったら無効」というように理解されてしまう方もおられるかもしれませんが、そんなことはありません。実際に欧米諸国の予防接種記録には「有効期間」ではなく、「追加接種の時期(Next booster)」という記載がされています。すなわち、一般的にいわれている「有効期限」が過ぎたからといって免疫がなくなる(無効になる)わけではなく、防御レベルの免疫が維持できていない可能性があるということですので、規定の接種をされている方は、最初からすべての回数を接種しなおす必要がなく、1回の追加接種をすれば防御レベルの免疫を獲得することが可能です。

 トラベラーズワクチンの選択にあたっては、現地滞在中の健康問題に関するリスクアセスメントを行います。必要な情報としては渡航者本人と渡航先に係わる情報です。本人の情報としては、基礎疾患の有無、既往歴、予防接種歴、アレルギー歴などで、渡航先の情報としては渡航先、渡航目的、渡航期間などになります。例えば、熱帯地域の開発途上国にボランティアで数年間滞在するような渡航形態は、多くの感染症に罹患するリスクが高いことが推測されるために、推奨されるワクチンの数も多く挙げられる一方で、先進国に出張で数日間滞在するような渡航形態は、最小限の追加接種で済みます。渡航先の感染症流行情報は、WHO のInternational Travel and Health や CDC のTravelers' Healthをはじめとして、Fit For TravelTropimedTravax 、厚生労働省検疫所FORTH 外務省 世界の医療情報、などが参考になります。

 トラベラーズワクチンに限らず、一般的にワクチンの効果判定や感染症に罹る可能性が不明確なところが大きいために、「とりあえず何でも全て接種しておくことが安心」と考える渡航者や企業の健康管理者も少なくはないと推測されます。また、ワクチン接種手技自体には特段の専門知識が必要ないことから、どの医療機関でも容易に行うことができてしまう現状があります。誤った情報で接種したり過剰接種したからといって、大きな問題を引き起こす可能性はきわめて少ないですが、100%安全ではないことも考慮に入れたうえで、必要最小限のワクチンを、優先順位に従って選択すべきであり、医学的根拠に基づいた正しい情報を入手すべきです。そのためにもトラベラーズワクチンに関する知識や予防接種経験の豊富な医師の受診が望まれます。当院では、国際渡航医学会認定医(CTM®)、米国熱帯医学会認定医(CTropMed®)を保有し、15年以上のトラベルクリニック業務を行ってきた院長が、ご相談からワクチン接種まですべて行います。また、当院でワクチン接種を行った方には、海外で健康上の問題が生じた場合でもできる限りのサポートを致します。

 ワクチンは温度管理がきわめて重要です。多くの診療所が一般の冷蔵庫での薬剤管理を行っている現状の中で、当院では大学病院などと同様に温度管理と記録ができる医療用保冷庫(写真掲載)を設置し、停電時のためのバックアップ電源も備えていますので、品質管理の高いワクチン接種を受けられます。 

 

主なトラベラーズワクチン

(1)A型肝炎ワクチン Hepatitis A

 A型肝炎は全世界に分布し、開発途上国では常時感染の機会があり、日本では戦後に生まれた方の大多数はA型肝炎ウイルス抗体を保有していないことが多いために、全渡航者へのワクチンとして最も頻用されるワクチンの一つです。小児の場合は罹患しても軽症で経過することが多いとされていますが、海外では1歳以上から接種可能な小児用の製剤もあり、成人と同様に推奨されます。日本では凍結乾燥型製剤(エイムゲン®)のみが承認されており、接種回数は3回(2-4週間隔で2回、24週経過後に1回)ですが、世界的には液状型製剤(Havrix®、Avaxim®、Epaxal®、Vaqta®など)が主流で、接種回数は2回(6か月間隔で2回)となっています。「輸入ワクチンなら1回接種で有効」と説明している医療機関もあるようですが、正確には「1回でも短期間であればある程度の免疫を獲得できる」という意味であり、免疫の長期持続を望むためには規定どおりの2回接種をする必要があるということをご理解下さい。当院では国産ワクチン(エイムゲン®)と輸入ワクチンのAvaxim®(Sanofi Pasteur社)ともに常備しております。 

(2)B型肝炎ワクチン Hepatitis B

 B型肝炎ウイルスの主たる感染経路は血液や体液を介した感染および性行為感染ですが、ウイルス持続感染者(キャリア)の分布は、欧米諸国では人口の0.1%程度に過ぎないのに対し、アジア、アフリカ諸国では高率であるため、開発途上国に長期滞在するような渡航者に対しては推奨されるワクチンです。日本ではビームゲン®ヘプタバックス®が流通しており、接種回数は3回(4週間隔で2回、20-24週経過後に1回)です。

(3)破傷風トキソイド Tetanus toxoid

 破傷風菌は土壌や汚泥に芽胞として存在し、全世界に分布します。年齢に関係なくトキソイドによる免疫がなければ、外傷により発症する可能性があるために全渡航者だけではなく、免疫のない可能性が高い高齢者に対しても積極的な接種が望まれるワクチンです。小児期に基礎免疫を獲得している(定期接種として規定の回数済んでいる)方については、通常1回の追加接種により最小発症防御抗体レベルを超えていると考えられていますが、日本では三種混合ワクチンの定期接種化が施行される1968年以前に生まれた方の大多数は免疫のない可能性があるために、初回免疫の獲得のために3回接種(3-8週間隔で2回、6か月以降に1回)を行うことが推奨されます。海外では成人への追加接種として、通常Tdap(破傷風・ジフテリア・百日咳)ワクチンが使用されています。Tdapは北米に留学する際に要求されるワクチンです。当院では留学される方のためにTdapワクチン(Boostrix®, GlaxoSmithKline社)を常備しております。

(4)狂犬病ワクチン Rabies

 狂犬病は一部の地域を除いて全世界で発生していますが、特にアジア、アフリカ地域に多く、年間の死亡者数推計は55,000人(アジア地域31,000人、アフリカ地域24,000人)と見積もられています。狂犬病ワクチンの接種方法には咬傷前に実施する曝露前接種と咬傷後に実施する曝露後接種があります。狂犬病の発生が多い地域への長期滞在、医療機関へのアクセスが不良な地域への滞在、動物との接触の機会があるような渡航者に対しては曝露前接種が推奨されます。日本の狂犬病ワクチンは精製ニワトリ胚細胞から製造されたワクチン(Purified chick embryo cell rabies vaccine; PCEC:ラビピュール®)ですが、世界的にはヒト2倍体細胞ワクチン(Human diploid cell vaccine; HDCV:Imovax®)や精製ベロ細胞ワクチン(Purified vero cellrabied vaccine; PVRV:Verorab®)などがあります。接種回数は基礎免疫の獲得として3回で、曝露前接種スケジュールでは0, 7, 21または28日です。曝露前接種を受けていない場合には、WHOが推奨するスケジュールは咬傷後0, 3, 7, 14, 28日の5回接種(日本では4~6回)が必要となり、0日目に抗狂犬病免疫グロブリン(Human rabies immunoglobulin; HRIG)の投与を受ける必要がありますが、日本ではHRIGは市販されていません。曝露前接種を受けていればHRIGは不要で、追加接種は咬傷後0, 3日のみで済みますので、可能な限り曝露前接種を推奨します。当院では海外で受傷後に現地で対応されることを想定し、世界で販売シェアが多いと推測されるVerorab®(Sanofi Pasteur社) を常備しており、接種も推奨しております。海外で動物咬傷に遭った場合の曝露後発症予防接種も対応可能です。

(5)日本脳炎ワクチン Japanese encephalitis

 日本脳炎は中国、東南アジア、南アジア地域での発生があり、流行の多くは郊外の農村地域です。発生地域への渡航者の中でも、都市部より郊外での滞在が多いような方に対して推奨されますが、日本も日本脳炎の発生地域に含まれることから、渡航に関係なく小児期早期(6か月~)の定期接種が望まれます。未接種者の場合、接種回数は3回(4週間隔で2回、おおむね1年後に追加接種)ですが、一般的に成人は小児期の接種歴や不顕性感染などである程度の免疫が維持されていることが多いので、追加接種のみで防御レベルの中和抗体の獲得が期待できると考えられます。

(6)髄膜炎菌ワクチン Meningococcal meningitis

 髄膜炎菌は13種類の血清型が確認されていますが、侵襲性髄膜炎感染症は5つの血清型(A, B, C, Y, W135)によって引き起こされます。日本も含めた散発的な発生、集団感染事例は確認されていますが、世界的にはサハラ砂漠以南の髄膜炎ベルトと呼ばれる地域での流行があります。流行地域への渡航の際だけではなく、イスラム教徒のメッカ巡礼に参加する場合や、北米、英国などで集団生活を送るに当たり接種が必須であることもあります。ワクチンは多糖体(Meningococcal polysaccharide vaccine; MPSV)結合型(Meningococcal conjugate vaccine; MCV)があり、日本ではA, C, Y, W135に対する4価結合型(MCV4, Men ACWY)としてメナクトラ®が2014年に、メンクアッドフィ®が2022年に承認されており、1回接種です。当院では輸入ワクチンのMenveo®(GlaxoSmithKline社)・Nimenrix®(Pfizer社)を常備しておりますが、B型ワクチン(Men B-4C; Bexsero®)(GlaxoSmithKline社)は取り寄せになります。B型ワクチンの対象年齢は10~25歳1か月間隔で2回接種が必要です。

(7)黄熱ワクチン Yellow fever

 黄熱はサハラ砂漠以南のアフリカ地域と南米で発生がみられています。流行国の中には国際保健規則(International Health Regulation; IHR)に基づき、入国時に黄熱ワクチン接種証明書(イエローカード)の提出が要求されるため、該当国へ渡航する場合は接種が必須となります。2016年より接種証明書は接種後10日より一生涯有効となりました。黄熱ワクチンは弱毒性黄熱ウイルス(17D株)を含む凍結乾燥製剤で、鶏卵由来でゼラチンが含まれているために該当物質にアナフィラキシーの既往がある方、また9か月未満の乳児も脳炎発症のリスクが高いことから禁忌となっています。副反応として局所反応の他、重篤なものとして高齢者を中心に、脳炎(20万件に1件程度)や多臓器不全(40万件に1件程度)などがあるため、65歳以上の方は注意が必要です。接種禁忌者や要注意者には接種禁忌証明書を発行することがあります。国内での接種は厚生労働省検疫所や一部の指定医療機関に限られていますので、当院では接種できません。

(8)腸チフスワクチン Typhoid

 腸チフスは開発途上国を中心に流行がみられていますが、特にインドをはじめとする南アジアが高度流行地とされています。流行地への滞在の際は短期でも推奨されるワクチンですが、日本では未承認ワクチンです。製剤は不活化ワクチン(Vi多糖体)と経口生ワクチン(弱毒株Ty21a)がありますが、日本国内のトラベルクリニックでは不活化ワクチンが頻用されていると推測されます。1回接種ですが、3-4年ごとに追加接種が必要となります。当院ではTyphim Vi®(Sanofi Pasteur社)を常備しております。

(9)ダニ媒介性脳炎ワクチン Tick-borne encephalitis

 ダニ媒介性脳炎はフラビウイルスによる人獣共通感染症で、シベリアや極東地域で流行があるロシア春夏脳炎と東欧を中心として流行がある中央ヨーロッパダニ媒介性脳炎の2つの病型があります。流行地域でも特に農作業や森林事業に従事する方、ハイキングやキャンプをする方、アウトドアスポーツをする方などに推奨されますが、日本では未承認ワクチンです。製剤はFSME-IMMUN®(Pfizer社)Encepur N FSME®(GlaxoSmithKline社)などが使用されています。接種回数は3回1~3か月間隔で2回、初回から5~12か月後または9~12か月後に追加接種を行います。当院ではFSME-IMMUN®(Pfizer社)を常備しております。

(10)麻しんワクチン Measles

 2016年に海外からの帰国者を発端とした散発的流行や、海外赴任者が現地で罹患し、脳炎を発症した事例がみられました。日本の定期接種スケジュールの歴史的背景や国内での患者数の減少などから、若年層を中心に十分な免疫を獲得できていない方が少なくはありません。日本は麻疹排除国としてWHOから認定を受けていることからも、海外から麻疹を持ち込まない、また海外で麻疹を発症しないためにも、最低2回のワクチン接種は必要で、規定の接種を実施していない方や接種記憶の曖昧な方は抗体検査を積極的に実施していただくなど、小児期の定期接種だけではなく、風疹とともにトラベラーズワクチンとしての認識も必要です。当院では国産のMR(麻しん+風しん)ワクチンのほかに、北米などに留学される方のためにMMR(麻しん+風しん+おたふくかぜ)ワクチン(Priorix®,GlaxoSmithKline社)を常備しております。

ワクチン接種の実際

 渡航先、渡航期間、渡航目的によってリスクを判定します。

あくまで参考ですが、3つの項目の該当部分を足し算して、5点未満であればワクチン接種の推奨度は低いと考えますが、1項目でも3点があれば、何らかのワクチン接種を推奨します。

 開発途上国、熱帯地域であれば渡航先に関わらず、

破傷風+A型肝炎+B型肝炎+狂犬病をベースとして

アジア地域であれば日本脳炎を追加、特に南アジア地域であれば腸チフスも追加

アフリカ地域であれば腸チフスと地域によって髄膜炎菌を追加

する場合が比較的多いかと思います。

 

<医療用ワクチン保管庫>

 

 <料金表 *2023年9月1日改定>
  • A型肝炎(エイムゲン)¥8,800
  • A型肝炎(輸入/Avaxim 160・Havrix 1440)¥15,400
  • A型肝炎小児用(輸入/Avaxim 80・Havrix 720)¥14,300
  • B型肝炎(ヘプタバックス)¥7,700 
  • A型B型肝炎混合(輸入/Twinrix)¥16,500
  • 破傷風トキソイド ¥6,600
  • 狂犬病(ラビピュール)¥23,100
  • 狂犬病(輸入/Verorab)¥17,600
  • 日本脳炎(ジェービック)¥8,800
  • 髄膜炎菌4価:ACWY(メンクアッドフィ)¥35,200
  • 髄膜炎菌4価:ACWY(輸入/Menveo・Nimenrix)¥19,800
  • 髄膜炎菌B型:MenB(輸入/Bexsero) ¥36,300 *取寄
  • 腸チフス(輸入/Typhim Vi)¥11,000
  • ダニ脳炎成人用(輸入/FSME IMMUN)¥16,500
  • Tdap(輸入/Boostrix)¥11,000
  • MMR(輸入/Priorix)¥11,000
  • 麻しん風しん混合(MR;ミールビック)¥13,200
  • 水痘・帯状疱疹 ¥8,800
  • 帯状疱疹(シングリックス)¥22,000
  • 流行性耳下腺炎(おたふく風邪) ¥6,600
  • 4種混合(DPT+IPV;テトラビック)¥11,000
  • 2種混合 / 3種混合(DT / DPT)¥5,500
  • ポリオ(IPV; イモバックス)¥11,000
  • インフルエンザb菌(Hib; アクトヒブ)¥8,800
  • 肺炎球菌(PCV13;プレべナー)¥13,200
  • 肺炎球菌(PCV15;バクニュバンス)¥16,500
  • 肺炎球菌(PPSV23;ニューモバックス)¥9,900
  • BCG ¥14,300
  • ロタウイルス1価(ロタリックス)¥15,400
  • ロタウイルス5価(ロタテック)¥9,900
  • パピローマウイルス2価(サーバリックス)¥22,000
  • パピローマウイルス4価(ガーダシル)¥22,000
  • パピローマウイルス9価(シルガード9)¥36,300
  • RSウイルス(アレックスビー)¥29,700

* 料金は1回1接種あたりです。接種はすべて医師が行い、調剤料および接種手技料が含まれます。

* 渡航ワクチンの場合、セット料金、割引料金もありますので、お問い合わせください。

* 毎週土曜日12:30~13:00に無料の渡航相談を行っています。ご希望の方は1週間前までにお問い合わせフォームからお申し込み下さい(電話での受付は行っておりません)。ご相談の上当院でワクチン接種を行った方は相談料(¥3,300)がかかりませんので、是非ご活用下さい。

 

 

 

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